にんじんネットの歩み

平成13年6月、県立長崎シーボルト大学情報メディア学科コミュニケーション演習室にNETSOCというLANが構築されていた。その主たる開発者だった教え子の大島君と、「このシステムを教室だけでなく地域に広げよう」と地域ネットワークの可能性を考えていた。

第一幕 まなび野・青葉台・南陽台から

当初、大学前の3町でにんじんネットは計画された。1.ストリーミングができること、2.安価であること、3.地域活性化に役立つこと、が目的だった。このために無線LAN(IEEE.802.11b)が採用され、調査によって多くの方々が興味をもっていらっしゃることがわかり、従来からの研究課題であったコミュニケーションと集団の発生システムの大実験場であることも判った。
同科松井教授に相談の結果NPO(特定非営利活動法人)として成立させ、同科故北畠教授の協力で自宅(長与教員住宅)にAPアンテナをたて、その電波の届く範囲で始めることになった。すべて私の私費なので、当初の計算で176名の会員があれば無料化できると算段した。

第二幕 協力による変質

各方面の協力を仰ごうと、副知事、町長などに面会を申し出、快諾を得た。副知事からは応援のメッセージを頂き、町は後援していただけた。しかし、町長は上記3町だけでなく全町に広げてほしいとのこと。学長は大学の地域貢献に資するとのことで、5名の同科教授が発起人となっていただけた。メーカーにも協力を求め、新しい子機を試作していただいた。
しかし、問題が発生した。
1.県NPO担当者はNPOであるかぎり不特定多数を対象にすべきで3町では小さすぎる
2.九州総合電気通信局は電気通信法に抵触する可能性を指摘、しかし限られた地域での運用は「電子回覧板」として認めよう
という見解で、これらを満たすには上記3町ではなく、長与全町での運用にならざるを得なかった。

第三幕 奈落の底へ

今に至るまで、にんじんネットは県からも町からも1円の補助も得られていない。まさに長与町の方々や教え子の協力と私の私費でなりたっている。
平成13年8月、第一回にんじんネット総会がグランドホテルで開かれ、NPOは申請された。
後戻りのできない状況で事態は進んでいった。大阪から平尾・三ツ井両君が長与へ転居し、総勢30名の協力者の下、まず、インフラの構築が始まった。エステート中尾社長の協力でアンテナ塔が作られ、地元地権者の方々の快諾を得て中央山/城山/高田小裏山など、次々とアンテナ塔が建てられた。同時に南陽台にもアンテナ塔とプレハブが建ち、費用は膨大なものになっていった。サーバーは東京の大島君が用意してくれた。

第四幕 運用開始とともに

平成13年11月1日を運用開始日に定め、会員の募集、広報をはじめたものの通信機メーカーとの間で大問題が発生したのである。それは、1.通信機のテストの状態のように、あるいは仕様どおり働いてくれない、2.開発された子機の価格が2万5千800円であった。しかし、既に何十名もの申し込みがあり、26000円の入会金では会員が増えれば増えるほど赤字が増えるという恐ろしい状態になったのである。しかも子機は12月になっても100台しか手に入らない。万時窮す、であった。

第五幕 年明けとともに

平成14年正月元旦、私はこれほど最悪な正月を迎えたことはなかった。元旦の朝、雷とともに全てのAPアンテナがストップした。1月7日から試験開局ということを公表していたからである。雨が降るたびにAPがダウンした。もちろん、会員の人達からはクレームの嵐で、電話で謝りながら、なぜAPがダウンするのか、なぜ子機のインストールがうまく行かないのか、毎日が苦悩との戦いであった。

第六幕 そして一つの結論

我々にはもうお金がなかった。何度も閉鎖の論議が続き、クレーム対応の合間の論議は暗く悲惨なものにならざるを得なかった。最初は夢とともに参加してくれていた教え子もボランティアも協力者も次々と去っていった。「最初から全面的にやり直そう・・」、新しいサーバー、新しい子機、新しいAP、新しい体制・・・。もし、4月になっても目処がつかなかったら、その時には閉鎖し頭を下げてまわろう。それまでに全ての会員を回ってサポートしつづけよう。ある日、ある会員からメールが届いた。「・・にんじんネットをわが子のように見守っています・・」みんなが泣いた。

第七幕 あたらしい出発

何が問題なのか。資金不足、人材不足、技術不足、なにもかも不足しているが、やはり、長与町のコミュニティー・ネットと言いながら長与町の人達で支えていないことではなかったか。長与町のみんなでつくるネットでなければ意味がない。そこで、理事会5名全員を長与在住者にし、長与のボランティアをつのり、長与の人達でHPづくりをしよう。クレームの多くはにんじんネットを商用プロバイダと勘違いされたことではなかったか。スピードの改善、電波状況の改善に全力を尽くしながらも、問題の根本は長与の人達に「子供のように見守って」もらうことではなかったか。

第八幕 本開局

新しい体制、新しいサーバー、新しい子機、新しいHP、新しい事務所・・・。あたらしく会員の募集ができるようになった。目標は長与町の全戸がにんじんネットに参加してくれること。長与町の人達でイベントを企画し、コミュニケーションを活発にし、生活に根ざしたネットにすること。
私は期待しています。私の夢がみんなの夢と重なることを・・・。

藤澤先生のノート