

ある日、長与町の野犬狩りがあり、白い犬が捕まりました。
鳴き声にビックリして外に出ると、針金が首に巻き付けられ「飼い主がいないなら連れて行きます」といわれました。
「飼い主と言われても…」
と思ったのですが、白い犬はここなら安心して子供を産めると思って店に入ってきたのでしょう。
「犬にでも、見込まれたのなら仕方がない。これも何かの縁だろうから、飼いましょう。」
「それなら、鎖を付けて役場に登録してください。」
桜の花びらが舞う中、こうして「さくら」と名付けられたこの白い犬は、我が家のペットとなりました。
これでめでたしめでたし?
いえいえ、そんなに甘いものではありませんでした。
放浪癖のついたさくらには、自由を奪う首輪を屈辱に感じたのでしょう。凛とした姿ながら、いつも、恨めしそうな目をして私達を見上げていました。
ある朝、ふと庭を見ると、金木犀の枝に赤い首輪がぶら下がってゆれていました。必死になって抜いたのでしょう。
中型犬なので、もし子供に飛びついてケガをさせては一大事!
ささ身を持って探しに出かけました。あちこちの公園に行きました。
しかし、時間が経ってお腹がすくと、ちゃんと帰ってきました。こんなことが2〜3回あったでしょうか。新しい首輪を買い、少し強めに締めても不思議に抜いていました。どこか、行きたいところがあったのでしょうか?
1993年の秋頃から、赤い首輪をつけて長与の町をうろつく白い犬がいました。なかなか賢そうな顔で人なつっこく、時々店に来ては入口で寝そべったり、戯れたりしていました。
「この子、お腹大きいでんナ」と、亡くなったお婆ちゃん。何ヶ月も放浪していたので、きっと引っ越しの時に置いて行かれたのだろう…、と家族で話していました。
ところが、冬の寒いある日、白い犬が店内に入ってきてゴロンと横になるではありませんか!
「あらあら、こんなところで寝ちゃ困るゥ〜」
と言いながら見ていると、横になったまま足を震わせはじめました。見るとお腹も堅く張って、陣痛のようでした。
こんな所でお産が始まったら大変!でも、外は寒く、追い出すだけではすまない…。アァ〜取りあえず出産だけでも無事に…、と思い、陣痛の合間に立たせて、裏の庭に移動させました。
急いで段ボールの箱を切り、小屋と屏風を作りました。夜半から出産が始まりました。動物好きの娘は1時間に1匹ずつのペースで生まれる子犬を一晩かかって丁寧に取り上げてくれていました。
朝、見てみると手の中に隠れるほど小さい、縫いぐるみのような子犬が7匹、母親の乳房を取り合っていました。かわいいけどこれからが大変だゾォ〜、と覚悟しました。
その間、白い犬は相変わらず放浪を続け、お乳が張ると帰ってきました。
少しずつ大きくなると、娘は毎日7匹の子犬をお湯で洗い、1ヶ月になる頃から、固形の餌をやわらかくして与えて餌に馴らしていきました。そして、子犬の写真を撮っては店頭に張って、里親を探しはじめました。
1匹は、ご近所の知り合いのお爺さんに貰って頂くことになりました。一人暮らしのお爺さんは「これで散歩が出来るバイ…」と、とても喜んでくださったとか。
1匹は、しばらく友人に可愛がって頂きましたが、数年後、転勤のために泣く泣く遠方のお爺さんの所まで車で連れて行ったとか。お爺さんは、鯛を用意して楽しみに待っておられたそうですから、可愛がって貰っていることでしょう。
1匹は、ご近所で可愛がられている様子。
1匹は、息子の友人に貰われていきました。
毎日世話をした子犬が貰われていくのを喜びながらも、残り少なくなった子犬に娘の気持ちも複雑だったのでしょう。茶色でよく足にまとわりついていた子犬を指名された時
「この子は、なついているからあげたくな〜い」
と抱きしめ、ハラハラと涙を流しました。
「うちの小さい庭では3匹も飼えんのヨ」とあきらめて貰いました。
あとの2匹は、小さいうちがいいのでペットショップに頼み、里親に貰われていきました。
残りの1匹だけは手元に残し、母親と一緒に育てました。
白くてムクムクと丸く、おっとりした顔はまるでゴマフアザラシの子供のようでした。それで、名前が「ごま」なのです。
毎日母親の側にいて、餌があって危険もないためか、性格はおっとりで人を疑うことを知りません。
2〜3年経っても飼われることにはなかなか慣れず、散歩が大変でした。庭から出られるとなると、さくらは馬鹿力を発揮しました。
自転車で散歩中、猫を見つけると突然、真横に走り出します。乗っていた娘は横転して引きずられ、鼻も頬もすりむき、唇は切れて血だらけになって帰ってきました。
夜中に散歩中の主人も、犬に出くわしたさくらの突然の暴走に自転車は前転!メガネは割れ、レンズで目尻の下を切って血だらけになって帰ってきました。小学校の通学路ですから、もしガラスでケガでもしては大変、と深夜、娘と息子がほうきとちりとりを持って後始末に行きました。
そう言う私も、ウッカリしたことがあります。ある晴れた日、横の駐車場につないでやろうと 成長したごまとさくらを同時に鎖につないで庭の戸口に来ました。それまでおとなしく歩いていた2匹は、戸が開いたとたん、脱兎の如く駆け出しました。その力の凄さたるや、私の体は一瞬宙を飛びました。犬たちは歩道から隣の駐車場にUターンしたのですが、私はUターン出来ずに歩道のアスファルトにたたきつけられました。一瞬、目の前に歩道の街路樹を囲っている煉瓦の角が迫りました!
あァ〜、頭に穴があくゥ〜!
はっと気が付くと1〜2cm先に煉瓦の角が見えました。
コノォ〜!ポカポカ!
同じ自転車で散歩に行くのに、ケガをしてないのは、息子だけです。1度に2匹を連れて自転車で行きますが、倒されたことはありません。腕の力?要領?フゥ〜ム…?
さくら 12才?♀

駐車場でゴロンゴロンが大好き!

耳と体がほんのりさくら色?

目元黒々チャーミング?

この目ってスゴクない?
まるでマスカラとアイラインを引いたよう…
夜の散歩が日課で、7〜8年の間はさくらは平穏無事な毎日でした。
さくらの担当は私。ウンチの始末も担当です。犬は突然ウンチをすることはほとんどなく、他の犬のにおいをかぎながら場所を決め、ほぼめどがつくとしばらくぐるぐる回ります。右に回ったり左に回ったり、行ったり来たりでようやく腰を落として耳をピ〜んと横に張り、気張り始めます。そこにすかさずたたんだ広告紙をさっと差し込むと、きれいに紙の上に落ちるので地面を汚すことはほとんどありません。結構な臭いに息を止めながら、なま暖かいウンチを包んでポリ袋にいれてしばり、持ち帰ります。
しかし、つい先日の夜、ごまがク〜ンク〜ンと鼻を鳴らしていたので庭を見るとさくらの姿がありません。首輪につけていたはずの金具がはずれたのでしょう。早速主人と鶏のささみとヒモを持って探しに出かけました。そんなに遠くには行ってないはず。公園の近くを探して家に戻るとき、ふと横を見ると暗闇のなかに白い犬の影が…。ン!
懐中電灯をつけると、お隣の裏口で何やら失敬してムシャムシャ…。
ンモォ〜!
低い声で「さくらッ!」
と呼んでも帰る様子もない。「余所さまのものを…、イケマセン!」
チラッと上目遣いに私を見ましたが、おとなしくつながれて帰りました。
今年は冷夏でしたが真夏日は蒸し暑く、犬にとっても厳しい季節でした。
お盆で帰省中の娘と、涼しくなった深夜の散歩に出かけました。久しぶりに河原におり、鎖を離してやりました。2匹はうれしそうに対岸に渡り、じゃれ合いながらかけずり回っていました。さくらがあまり遠くに行ったので、娘が「さ〜くら〜」と呼びました。その声を聞いたさくらとごまは、一目散に娘の方に駆け寄って…、アララ、娘の横を駆け抜けて階段を駆け上がって行ってしまいました。顔を見合わせた二人が上に駆け上がったときには、影も形もありません。
トホホ…。
娘はさくらたちが行ったと思われる川上の方に探しに出かけました。私は携帯で主人にSOS!
「大変!さくらたちが脱走よォ〜!食事が済んだら来てェ〜」
早速、主人は娘のジムニーで駆けつけてくれました。私は家で待機することにし、主人と娘は1時間あまり探しましたがどこにもいなかった、といって帰ってきました。もう夜中の2時半です。
「さくらは放浪していた犬だから大丈夫かもしれないけど、ごまちゃんはボ〜ッとしてるから帰ってききらんじゃなかろうか…?」
「大丈夫サ〜、歩いていったんだもの、帰れるヨ」と心配する主人を横目に、私は先に休みました。
責任を感じたのか、娘はまた探しに出かけたそうで、丁度我が家に向かって歩いているごまを見つけて連れて帰りました。

翌朝、ごまのもの悲しそうなヴォ〜〜という声で目が覚めました。
午後、用事を終えて早めに帰ってくると、娘が一生懸命ポスターを作っていました。あちこちに貼らせて貰う交渉もして…。
「たずね犬」
さくらの写真を入れたA4・A3のカラーで、雨に破れないようにパウチをしてありました。「昨日は上の方を探したから、今日は下を探そう」とポスターを持って出かけました。まず、うちの店のシャッターに張りました。
「うん、よく目立つヨ」
早速ジムニーに乗り込み、出発!はじめの交差点を横切ったとたん、横を見た娘が「アレ〜ッ?さくらじゃない?」
マンションの駐車場にゴロンと横になっているさくらを発見!
「アラッ、轢かれたのかしら?」
車を降りて急いで行ってみると、起きて座っているが少し震えている。
「どうしたの?大丈夫かい?」
大好物のささみを見せてもうれしそうな様子もありません。リードをつけて歩くと少しびっこをひいています。やはり、どこかケガをしている様子です。そのまますぐにかかりつけの沢本先生のところに連れて行きました。しかし、そこでは何とちゃんと歩くのです。
「病院に来ると、犬でも少々痛くても我慢するんですヨ」と先生。ヘェ〜
X線をとってみると右後ろ足が腫れていてネンザだとか。
足の裏の傷もありましたが、大したことはなく消炎剤をもらって帰りました。
ところが、さくらの様子が何となくおかしいのです。オスと間違えるほどのいつもの覇気が全くありません。意気消沈!へこんでしまいました。目の下のケガも気になります。
ネコにでも引っかかれたのかしら?
犬とけんかをして負けたのかしら?
気の強い犬だから、負けたショックが大きかったかのようでした。
でも、これも3〜4日のこと。傷の痛みが癒えたのか、もうすっかり
気の強いママに逆戻り!
こうしてまた、引っ張られながら夜中の散歩に出かけています。

へこむさくら

まぼろしのポスター